【バイナンスがSECから提訴】提訴の内容 / バイナンスが各国から規制を受ける理由 / アメリカSEC委員長ゲイリー・ゲンスラー氏の経歴と暗号資産への規制を強める理由
2023年6月5日、世界最大の暗号資産取引所である「バイナンス」がアメリカの証券取引委員会(SEC)から提訴されました。
おはようございます。
web3リサーチャーの三井です。
今日は今朝飛び込んできたニュース「バイナンスがSECから提訴」されたニュースについてリサーチしました。
※前提情報や関連情報を踏まえて解説しますが、即時性の高いニュースリサーチであるため抜け漏れや情報の齟齬がある可能性があるのでご了承ください。
«目次»
1、何があった?
2、バイナンスと規制
3、アメリカの暗号資産への規制、SEC委員長ゲイリー・ゲンスラー氏の正体とは
- ゲイリー・ゲンスラー氏のプロフィール
- 就任当初は歓迎!?
- 暗号資産への規制は過去の成功体験から?
4、批評には適切な知識が必要
何があった?
2023年6月5日、世界最大の暗号資産取引所である「バイナンス」がアメリカの証券取引委員会(SEC)から提訴されました。
↓SECからの発表
合計13の告発があると書かれていますが、主に主張されていたことは次のような事案です。尚、告発されているのはBinance.comを手がけるBinance Holdings Ltd.とBinance.USを手がける関連会社BAM Trading Services IncとBinance創設者のCZ氏です。
<告発事案>
米国顧客によるBinance.comでの取引は制限されていると主張していたが、一部米国の高級顧客が同プラットフォームでの取引を継続的に行えるよう密かに許可していた(米国の規制外のプラットフォームを利用できるように融通していた)。
米国投資家のための独立したプラットフォームと公表しているBinance.USを、BinanceとCZが裏で管理していた。
顧客資産と自社の利益を混同して管理、利用していた。
プラットフォームの取引を人為的につり上げる操作取引に関与した。
数十億ドルの投資家の資産を混ぜ合わせ、同じくZhaoが所有する第三者であるMerit Peak Limitedに送っていたという事実を隠蔽した。
未登録のステーキングプログラムなど、多数の商品を販売した。
etc..
SEC委員長のゲーリー・ゲンスラー氏は、「13件の告訴を通じて、ZhaoとBinanceの事業体が広範な欺瞞、利益相反、情報開示の欠如、計画的脱法に関与したと主張する」と述べました。
これに対してバイナンスは即座に反応し、事実を否定すると共にこの動きは米国における金融イノベーションを阻害する動きであり失望したとコメントしています。
実はバイナンスは2023年3月に米商品先物取引委員会(CFTC)からも、未登録のデリバティブ取引を提供していたと提訴されていました。
これでバイナンスはアメリカの金融領域における2つの連邦機関のCTFCとSECの両方から提訴されるという非常に厳しい立場となりました。
ちなみにCFTCは主に商品先物市場とデリバティブ市場、SECは株・債権・投資信託などの証券市場の規制を担当する機関です。
ではここからは「バイナンスがなぜ規制されているのか」という側面と「SECによる暗号資産規制がなぜ強まっているのか」という2つの側面を見ていきます。
バイナンスと規制
バイナンスは2017年に創業された世界最大の暗号資産取引所であり、世界各国にサービスを提供しています。
昨年のFTXの破産でその地位をさらに盤石にしました。
そんなバイナンスですが、アメリカに関わらず最近は各国から規制を受けています。
アメリカ:2023年3月にCFTC、6月にSECから提訴
カナダ:規制強化のため2023年5月にカナダ全土から撤退
日本:2022年11月にサクラエクスチェンジビットコイン(SEBC)を買収、2023年5月末を持って日本事業を終了し、今後はSEBCをバイナンス・ジャパンとして、日本居住者に暗号資産サービスを提供することを発表
ヨーロッパ:フランス、イタリア、スペイン、ポーランドの4ヶ国において、モネロ(XMR)など匿名性の高い12種の暗号資産を6月26日で上場廃止
この背景にはまず世界的に暗号資産が規制されている側面があります。これはバイナンスに限った話ではなく、すべての取引所が各国の規制に対応を始めています。バイナンスは規模が大きいので必然的に各国で規制を受けているように報じられます。
↓日本でもトラベルルールが適応されました。
その上で、特にバイナンスはその”創業からの成長過程(経営戦略)”における副作用が発生していると言われています。
バイナンスは元々中国で創業されましたが、国内の規制が厳しくなったことで国外に移転しました。そして、その後は本社がどこかを明確にしていません。度々噂に上がり追及されるも、否定したり質問をかわしてきました。
つまり、各国に現地法人を持たずにグローバルである程度共通したサービスを提供してきたというわけです。
顧客からすればバイナンスは非常に便利なサービスだったので世界中に普及しましたが、各国にしてみれば規制の対象外のサービスを提供されていたということです。よって、規制強化の波が訪れた現代においては、元々各国の規制外でサービスを提供していたバイナンスのサービスが次々と規制されており、現地でのサービス提供が難しくなってきている国が生まれているということです。
アメリカの暗号資産への規制、SEC委員長ゲイリー・ゲンスラー氏の正体とは
特にここ数ヶ月はアメリカからの規制追及が激しく、アメリカ市場からの撤退の可能性も浮上しています。
実はアメリカではバイナンス以外にも暗号資産業界全体に対して強い規制がかけられそうになっています。
暗号資産取引所Krakenのステーキングプログラムに関して、証券法に違反している可能性があるとしSECが起訴
イーサリアムが証券の可能性があると言及
リップルが証券の可能性があると提訴
Coinbaseに対して証券取引法違反の可能性があるとして、執行措置を取る可能性を示す書簡を送付
etc..
アメリカの暗号資産業界が世界から遅れを取る可能性があると指摘されており、その規制の大部分に関わるSEC委員長「ゲイリー・ゲンスラー」氏を批判する声も聞こえてきます。2023年4月には米議員から解任を求める議案が提出されました。
では、ここからは「ゲンスラー氏の正体」と「なぜゲンスラー氏は暗号資産を規制するのか?」について解説します。
■ゲイリー・ゲンスラー氏のプロフィール
ゲイリー・ゲンスラー氏は経済学と金融規制の専門家で、2021年からSEC(アメリカ証券取引委員会)の委員長を務めています。彼はアメリカ大統領ジョー・バイデンによってこの役職に任命されました。(SECの委員長は大統領により任命されます)
ゲンスラー氏は1957年に生まれ、ペンシルバニア大学ウォートンスクールで学士号を取得し、ハーバード大学ビジネススクールでMBAを取得しました。彼はそのキャリアをゴールドマン・サックスで始め、パートナーと共同部長を務めていました。
その後、CFTC委員長、クリントン政権時代に財務省の次官補(金融政策)を務めた。CFTC委員長時には2009年のG20ピッツバーグ・サミットでの合意のもと、店頭(OTC)デリバティブ市場の大幅な改革を指揮した。
その後、ゲンスラー氏はマサチューセッツ工科大学(MIT)で教え、特にブロックチェーンと金融技術についての知識を深めました。
■就任当初は歓迎!?
ゲンスラー氏は暗号資産に関してタカ派(規制に積極的)の姿勢を示しており、暗号資産業界から批判を集めていますが、就任当初は肯定的な意見も多かったです。
その理由は彼のプロフィールにあり、金融業界への知見も深く、MITでブロックチェーンについての勉強や教育に携わっていたからです。
つまり、アメリカにおける暗号資産の規制はよくわかっていない人物がわからないという理由で闇雲で規制しているわけではありません。
ではなぜ暗号資産への規制を強めているのでしょうか?
■暗号資産への規制は過去の成功体験から?
ここからは完全に過去の経歴からの考察になりますが、「ゲンスラー氏は暗号資産業界のことが嫌いなのではなく一般投資家を迎え入れる(マスアダプションする)には適切な規制が必要だと思っているのではないか」と考えられます。
その理由は彼の経歴にあります。
彼はCFTC委員長に就任した後、2009年にデリバティブ市場の大幅な改革を指揮しました。また、金融システムを再構成することになったドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法という立法にも携わりました。
難しい言葉が並びますが、要するにこれは金融業界の特にスワップ市場に大胆な規制を導入した法律です。この法律(規制)は当時大きな批判を浴びましたが、アメリカのスワップ市場は現在も高い流動性と信頼を誇っています。
つまり、適切な規制がなければその市場は健全に大きくならない、また立法時は大きな批判を浴びても仕方ないと考えているのかもしれません。
これらは考察になりますが、経歴を紐解くとそのような思想のもとに行動していると考えても不自然ではありません。この仮説をもとに考えると、これからもアメリカの暗号資産に対する規制は強まっていくと考えられます。
それが10年後に一般投資家が安全に利用できる業界になるのかは歴史が証明するので今はわかりません。
批評には適切な知識が必要
さて、この記事では「バイナンスがSECから提訴された内容」から始まり、「バイナンスの規制理由」と「アメリカSECがなぜ暗号資産に規制を強めるのか」について深堀しました。
最初は今回のニュースだけをリサーチしていましたが、そもそもSECってなんだ?バイナンスはいじめられてるのか?なぜSECトップはこんなに批判されてるのに暗号資産への規制を強めているんだ?と幅が広がっていきました。
正直、僕はアメリカSECはブロックチェーンに対してよくわかってないから適当に規制しているのだと思っていました。(適当は大袈裟な表現ですが、技術を深く理解しているわけではないのかな?と)
深くどこまで理解しているのか、どういう思想を持っているのか、実際のところはわかりませんが、ゲンスラー氏の経歴を見るとブロックチェーンについて学んだ事実がわかります。
僕は暗号資産業界にいるので、どうしてもそっち側の意見ばかりが入ってきてしまいますが、正しい批評には適切な知識が必要だと改めて感じます。それぞれ信じるものがあり、狙いがあるので、お互いの事実と主張を切り分けて考える必要があります。
リサーチャーとしてもなるべくフラットにお互いの意見を調べていきたいと思います!
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